
People at Ota Market
大田市場の人々
記念すべき連載第一回に登場するのは「大田市場のシンボル」とも呼ばれる老舗の仲卸業者・嶋和の代表、井戸健輔さんです。
Text: Ryosuke Tanikawa
Photographer: Masabumi Kimura
【仲卸】井戸健輔(嶋和)
Kensuke Ido
仲卸らしい仲卸――市場の関 係者がそう口を揃えるほど、信頼を積み重ねてきた「嶋和」。代表を務める井戸さんは、先代の父から後を託されて3期目を迎えた。卸業者と小売業者の仲介を担う仲卸業の魅力を、今年で46歳となる4代目はこう語る。「毎日が博打みたいなもん。品物によって相場が変わり、常に正解なんてない。だから、同じ仕事しても飽きないんだろうけど(笑)」。大田市場に160軒以上もある仲卸業者の中で、八百屋や料理人が嶋和の看板を求める理由に、商材ごとに目利きの担当がいる点が挙げられる。「方針は“良いもの”を売ろう。それだけ。それぞれの担当がしっかり選んだものだったら、好きなだけ仕入れていい、と」。いまや従業員もグループ企業を入れると70名を超えた。「松茸値付け人」と呼ばれる井戸さん自身も、番頭に立つ時間が増えた。「昔は朝までずっと忙しかったから『客の相手なんかしてんじゃねえ!』ってよく怒られた。今は朝5時になったら店売りに立つ。
そこで料理人と話すのはやはり面白い。天然キノコを仕入れるとすぐに反応してくれるから、逆に食べ方を聞いたり。ここ5年ぐらいはトマトを集めていて、いろいろ聞かれると嬉しくなる」。移りゆく時代。SNSの発達で生産者(農家)から直接飲食店におろすケースも増え、値付けの変動が激しくなった。市場内の働き方にも変化が起きて仲卸の仕事でさえ分業制が進んでいる。「価格交渉だけして、商材を見ずに運送に任せるケースも少なくない」。それでも、井戸さん には貫きたい想いがある。「やっぱりね、泥臭いやり方がいい。ちゃんと商材を見て、確かめて、売りたい。そこにお客さんがついてきてくれたら。うちの会社は本当に運が良くて、先代の頃から付き合いのある業者がどんどん成長した。最初は数店舗だったオオゼキさんもいまや有名企業。担当者は今もお店に来て会話ができる。本当にありがたい」。最初は嫌だった市場に気づけば四半世紀もいる。誰もが認める仲卸の仕事に、今は誇りをもっている。
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