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小松菜農家・中代利和さん

Text: Ryosuke Tanikawa

Photographer: Masabumi Kimura

江戸時代から続く
東京の小松菜農家

調理しやすく、しかも安くて美味しい。いまや食卓に欠かせない野菜となった小松菜は、じつは東京が発祥の農作物。江戸時代から続く畑を守り続ける農家さんの本音に迫った。

Toshikazu Nakadai

小松菜農家 中代 利和

小松菜は「良い八百屋」の証

東京の野菜といえば? 消費者である我々は意外と知らない。でも、東京の八百屋は当たり前のように口を揃える。
「良い小松菜を並べるのが、良い八百屋の証なんだ」
さかのぼること江戸時代。現在の江戸川区にある小松川で栽培されていたことが由来とされる漬け菜は、特に関東のお正月ではお雑煮に欠かせない食材として知られている。クセがなく、煮ても炒めても、おいしい。和・洋・中どの料理にも万能とあって長い時間をかけて食卓に愛されてきた。
東京都で6,604トン収穫された小松菜(令和4年産)のおよそ40%を生産する発祥の地・江戸川で、30年前から通年専作するのが中代利和さんだ。

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「鹿骨」と書いて「ししぼね」と読むこの地は、小松菜農家が多く揃うエリアとして知られている。暑さも緩やかな5月の撮影だったが、ハウスに足を踏み入れると汗が滴る。

「倅(せがれ)がちょうど10代目。もともと本家があって、江戸時代の後期ぐらいに、おそらく分かれた。だから、うちは分家なんです。周りの3軒もみんな『中代』で小松菜を作っています。おかげさまで、どうにかやってこれました」
農家になる前は調理師として働いていたが、「男は一人だったから、いずれは継がないといけないとは思っていました」と先祖が代々、守ってきた農地を受け継いだ。
立派な住居を抜けた先に広がる農地に小松菜ハウスが3つ。驚く取材陣を尻目に「いやいや、うちなんて中規模ですよ。この辺はもっと広いところがいっぱいありますから」と中代さんは謙遜する。その言葉が江戸川の歴史を物語るが、取材に同行した青果店の関係者はこぞって「二十番さん」の質を保証する。
「二十番(出荷番号)と聞けば、良い小松菜だとすぐわかる。立派なハウスがあって、灌水の機械もあって……こんな農家さんは他区ではそうそうないですよ」
中代さんが作った小松菜は大田市場へ出荷されるほか、子どもたちの給食や動物園のエサとしても届けられている。「子どもと動物は、味に正直だからね」と笑う横顔には、上質な小松菜づくりへのこだわりを感じさせる。
耐久性に優れる硬質フィルムのハウス。堆肥を年1〜2回ほど投入する土づくり。耕うん、種まき、灌水、消毒、収穫、出荷を順番に繰り返していく中で、小松菜は「収穫」の作業がもっとも大変だという。
「夏の収穫時期は2〜3日しかないんです、どんどん成長していくんで。だから収穫を賄える量しか種を一度に撒けない。一度にバーンと撒くのではなくてね。収穫が終わると、次はこっち(隣のエリア)と順々にやっていく。それを一年中、繰り返していきます」
撮影時期は5月下旬。収穫を待つ小松菜は美しいが、短い葉を見つけると「肥料を撒きすぎたな」とすぐさま次の種まきに想いを巡らす。
「(ひとつのエリアで)だいたい、出荷3日分ぐらい。夏は2〜3日で収穫しないといけないけど、冬場は成長が遅いから10日ぐらいは圃場に置いておける。でも、暖かい時期は小松菜が細いから収量が少ないけれども、冬になると(よく育つから)大体倍ぐらいになりますよ」
夏場では種まきからわずか20日程度と作付け期間が短い小松菜は、普遍的な需要もあり、農家の経営的には「計算しやすい作物」と言えるだろう。それでも、中代さんは刻々と移り変わる時代の変化も痛感している。

小松菜農家・中代利和さん
小松菜ハウスに立つ中代さん

農家の悩みと後継者問題

「昨年も暑かったでしょ。だから、いい小松菜が育たなくて結構処分しましたね。今はみかんを北海道で作ってるわけでしょ。農作物が(気候に合わせて北に)上がっていくのは自然だけど、私たちは動けないから。それに、やっぱりコストがね。このハウスも30年ぐらい経つけど、今作ったら4倍ぐらいかかる。そういうのも考えてやっているので。畑をやっていくのも大変なんですよ(笑)」
ただ、中代さんには心強い味方がいる。8年前から息子・雄一さんが後継者として小松菜作りに加わった。
「力仕事をやってもらっているから、腕が細くなっちゃいましたよ。年寄りみたいな身体になっちゃってさ」
64歳とは思えない軽やかな動きの中代さんはそう苦笑いするが、どこかホッとしたような気持ちも伝わってくる。父と似て、控えめな雄一さんも「どうせ継ぐなら早いほうがいい」と、24歳の時に本格的に手伝いを開始した。市場への出荷は雄一さんが担っている。
「同世代の業者は少ない。農業の世界は厳しいと言われて、確かにそう感じる部分もある。でも僕にとっては淡々と作業できる環境はストレスなくていい。それに、ジムなんか通わなくても体を鍛えられますから(笑)」
近年では農地をマンションや駐車場に宅地転用するケースも少なくないが、10代続く畑を受け継ぐやりがいを日々感じている。
「たいそうなことは言えないけど、でもカタチの綺麗な小松菜ができた時は嬉しいですよ。直接、消費者の声を聞けることは少ないけど、それが一番のやりがいですかね」(雄一さん)
農家さんたちの想いに触れた夕暮れ、買い物カゴを手に野菜コーナーに立ち止まる。中代さんの言葉が蘇る。
「まっすぐ、姿が美しいものがおいしい。やっぱりさ、悪いやつは持っていきたくないじゃない。いいもんを出したい。その繰り返しですね」
食卓に並んだ小松菜の味噌汁がいつも以上に身に沁みた。

小松菜ハウス
小松菜ハウス外観
根付きのままの小松菜

根付きのまま素早くテープで結束。泥を落とした後、洗浄、予冷庫で冷やして出荷用に箱詰めする。

上質な小松菜

整備された農地でつくられる上質な小松菜。「他の野菜を直売に出す家もあるけど、うちは小松菜だけ」

中代さん一家

現在は3人で作業を行うという中代さん一家。

小松菜ハウス外観

小松菜農家
中代 利和さん/東京都江戸川区鹿骨

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